福島県生まれの期待のりんご
真紅に着色する「べにこはく」
「べにこはく」は、福島県農業総合センター果樹研究所で生まれ、2018年に品種登録された品種です。現在福島県のみの栽培で、さらに果実の収穫は木を植えてから4年目以降と考えると、まだほとんど店頭には並びません。
写真の蜜入りの「べにこはく」は、2024年の夏〜秋にかけての異常な高温が続いた年の写真です。気候条件に恵まれれば、断面の7〜8割が蜜になることもあるそうです。
果肉も緻密で適度な酸味がある品種。今後、福島県の主力になる力が十分にあります。
2024年11月25日撮影
異常気象の2024年ですら
蜜がしっかり入る「べにこはく」
福島県は元々、ふじの産地。ところが、近年の気温上昇の影響で、福島県ではふじの栽培が難しくなってきました。りんごは元々寒い土地の果樹なので、気温が上がると栽培が難しくなるのです。
2024年は、直近10年で考えると最も過酷な年でした。夏から秋にかけて気温が高すぎたのです。りんごだけでなく、全国でありとあらゆる果物・野菜が影響を受けました。福島県では、平均気温が例年より約2℃高く推移、もはや異常事態です。
果樹は栽培適地があり、例えばみかんは温暖な気候で適度に雨がある場所で栽培されています。りんごは、青森県〜福島県までの東北地方と、標高の高い長野県や群馬県の高原地帯が産地です。
福島県農業総合センター果樹研究所では、ずいぶん前からこのような状況を見越して、気温上昇に強い品種を作ろうと、研究を重ねてきました。品種開発に携わった岡田栽培科長と、瓜生副主任研究員にお話を伺いました。
気温上昇に強いりんごが出来た。
「べにこはく」は蜜入り、硬さ、
着色に優れます。
高い気温でもうまく育つ品種を開発しようと思っていましたが、期待以上の品種ができました。
「べにこはく」は、着色が良く、蜜入り、硬さ、貯蔵性にも優れるのです。収穫後、0℃の貯蔵庫で保存すれば、2〜3ヶ月は問題ありません。しかも蜜が入ったままで貯蔵が可能です。
りんごは、最も人気がある「ふじ」が基準で、ふじより遅い時期の収穫になると販売が難しくなります。
決して狙ったわけではないですが、ふじより遅い時期の収穫になりました。しかし、貯蔵しても味が良いので年明けから3月位まで勝負できると思っています。
まだまだ、生産量は少ないですが、ここ数年試験的に栽培した生産者の中には手ごたえを感じている人もいて、「改植の際は、べにこはくを増やす予定だ」との声があります。
福島市の生産者 菱沼健一さんも
「べにこはく」を推す一人。
写真のように枝にたわわに実ります。これだけ沢山実を付けても、1つ1つが大きくなるのです。福島県でしか栽培できない品種で、これだけ優れているんだから、是非増やしていきたい。
菱沼さんは、2024年時点で20aの面積を栽培していますが、今後7倍に増やす予定だと言っていました。特に2023年と2024年が2年続けて高温続きの中、これだけよく育つりんごはないそうです。
私もさっそく園地で試食をしましたが、蜜入りは良好で、果汁もたっぷり。とても状態が良く、今の福島県の気候に適しているように感じました。少し酸があるので、果肉が硬いままなら1月か2月にもう一度食べてみたい品種です。
危機を前もって予想して、新しい品種を生み出す技術者には敬意を表します。生産者を支える、国や県の公共施設があってこそです。べにこはくが、今後多くの人が楽しめるよう、増えていくことを期待しています。
文:(株)食文化 赤羽 冬彦